岡山家庭裁判所 平成11年(少)68号 決定 1999年2月17日
少年 MことH・T(昭和57.5.20生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
第1 少年は、A子と共謀の上、平成10年12月8日午後2時10分ころ、岡山市○○×××番地の×所在の株式会社○○書店○○店において、同店店長B管理にかかるコミック本15冊(売価合計5831円)を窃取した。
第2 少年は、平成10年11月5日、岡山家庭裁判所において、道路交通法違反、恐喝、窃盗保護事件により保護観察処分に付されたものであるが、同年12月ころからは度重なる保護者の注意や指導に従わず、再び夜遊びや無断外泊を繰り返し、平成11年1月初めころからは、元暴力団組員でCと称する男性(30歳位)らと行動を共にするようになり、同月15日ころ、同人の軽四輪自動車を無免許運転して岡山市○△×××番地の自宅付近から同市○□にあるパチンコ店に向かう道程において自損(物損)事故を起こしており、このまま放置すれば、その性格及び環境に照らして、将来、道路交通法違反等の罪を犯すおそれがある。
(法令の適用)
第1の事実につき、刑法60条、235条
第2の事実につき、少年法3条1項3号本文、同号イ、ハ、ニ
なお、岡山保護観察所長からの通告(当庁平成11年(少)第89号)にかかるぐ犯事実は、同通告書第5項「通告の理由」に記載のとおりであるが、このうちの窃盗(万引き)の事実は、前記第1の窃盗の事実と同一であると認められるので、これをぐ犯事実としては摘示しないものとする。
(処遇の理由)
1 少年の非行歴、生活状況等
少年は、実父母の一子として出生したが、昭和59年夏ころに実父母が別居するようになり、昭和60年夏ころ実母に引き取られ、昭和61年ころから平成5年ころまでの実母の内縁の夫との同居期間を経て、現在は実母と二人暮らしである。戸籍上は実父の氏になっているが、普段は実母の氏を名乗っている。
少年の実母は、少年に対し必ずしも十分な躾教育等が出来なかったきらいがあり、少年は小学校在学中から万引きや他の児童に対する暴行等の問題行動がみられ、平成8年、中学2年生ころからは怠学傾向も目立ち、不良仲間と起こした窃盗(バイク盗)保護事件により平成9年9月1日、当庁において審判不開始決定を受けた。同年12月ころからは住み込みで鉄筋工として稼働するなどしていたが、中学校を卒業した平成10年4月ころから年長の不良仲間等との交遊が密になり、仕事も辞めて家にも帰らず、概ね徒遊の生活を送る中で非行を重ね、観護措置を執られた上、道路交通法違反、恐喝、窃盗保護事件により、同年11月5日、当庁において保護観察処分に付された。
その後は、少年の自宅において本件窃盗の共犯者でもあるA子と半ば同棲生活を送るようになり、調理師見習いとして通じて5日程稼働したのみで遊び中心の無為徒食の生活に戻り、年長の不良仲間との交遊も復活し、更に前記第2の事実記載のCらとの交遊に耽るようになり、同事実記載の事故により同人の自動車を損壊したことからその弁償を迫られ、少年の自宅において同人らから灰皿で殴打されるなど激しい暴行を受け、同人らから逃れるために親戚の家に隠れ住むなどしていた。
2 少年の性格等
少年の知能は「中」段階である(IQ=96、新田中3B式)。
神経質・過敏で気分や感情の安定を欠き、些細なことでいらいらするなど落ち着きがなく、独りよがり・自己中心的で、自分の欲求にこだわり、思い通りにならないと他罰的になって些細なことでも不満を抱く傾向がある。被害感や疎外感を強めやすい反面、依存欲求も強く、弱者には圧力を加え、強い物にはへつらうなど両極的な言動に出がちで、信頼に基づく対人関係を築くことが困難である。思いつきや感情のままに行動するなど衝動的傾向もみられ、情緒の統制が悪い。
3 検討
本件は、万引き(前記第1の事実)及び不良交遊等や無免許運転を中心とするぐ犯(前記第2の事実)の事案であり、それ自体は重大な事犯とまでは言えないものの、少年は、前記のような問題行動を繰り返し、前件で観護措置を執られた上で保護観察処分に付されたにもかかわらず、放恣な生活態度を改めることなく、短期間のうちに再非行に及び、保護観察所においても社会内処遇の継続による更生は困難と判断され本件ぐ犯通告がなされるに至ったもので、前件の内容に照らしても無免許運転や窃盗について常習的傾向が窺われ、犯情はかなり悪いといえる。
少年の前件非行も年長者と不良交遊に耽る中で取行されたものであり、この点については前件処分の前後にも関係各機関や保護者から強い指導がなされたにもかかわらず、少年は、同様の過ちを繰り返している。特に前記のCについて、少年は、同人は元暴力団組員と称し、少年を連れ回して身の回りの雑用をさせたり、覚せい剤様のものを勧めたりしたなどとも供述しており、相当問題のある人物であると思料されるにもかかわらず、前記の少年に対する暴力事件までは漫然と交遊を続けていたというのであり、少年の認識の甘さが見て取れる。
少年は、一応反省の態度を示してはいるが、施設収容を極端に恐れているようであり、非行の原因や自己の抱える問題点についての内省の深まりは認められず、総じて、少年の規範意識は乏しく、法軽視の傾向は顕著であり、反社会的な行動傾向が顕著で、年長の不良仲間への依存性も強く、再非行の可能性も高いと言わざるを得ない。
少年の実母は、少年を見放しているわけではないが、少年がその指導に従わずに非行を重ねることから、現時点での少年の引取りに積極的ではなく、監護意欲は乏しい。少年の実父は、少年とは十数年来会うこともなく、同居者の有無や生活実態すら不明で、少年の引取りに積極的な様子も窺われず、十分な監護は期待し難い。
加えて、これまで検討した諸事情を総合考慮すれば、社会内処遇による少年の更生は著しく困難であると言うほかなく、少年の更生を図るためには、現時点で少年を矯正施設へ収容し、専門家の指導の下、内省を深めさせ、規律ある集団生活の中から健全な規範意識を体得させると共に、治療的な指導により前記のような性格上の問題点の改善を図り、社会生活に適応しうる素地を涵養せしめることが必要かつ不可欠であり、かかる目的を達成するためには相当の期間が必要である。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 畑口泰成)
〔参考〕 通告書
通告書
岡保観発第××号
平成11年1月21日
岡山家庭裁判所 殿
岡山保護観察所長 ○○
次の者は、少年法第24条>第1項第1号の保護処分により、当保護観察所において保護観察中のところ、新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので、犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。
1 氏名等
氏名・年齢 MことH・T(昭和57年5月20日生)
本籍 岡山県久米郡○○町○○×××番地
住居 岡山県岡山市○△×××番地
職業 無職
2 保護者
氏名・年齢 M・T子(昭和26年3月27日生)
住居 本人に同じ
職業 食品加工員
3 本件保護処分
決定裁判所 岡山家庭裁判所
決定の日 平成10年11月5日
4 保護観察の経過及び成績の推移
(1) 保護観察の経過
H10.11.5 保護観察決定
11.8 本人、母同伴で初回来訪。遵守事項の説明をし、遵守を指導するとともに、早期就労を指導。
H10.11.20 約束通り、本人単独で来訪。求職中で、2・3面接を受け、その内の1つJR山陽線○○駅前にある『○○』から今月中に返事をもらう予定で、普段は家でA子と遊んでいる、とのこと。
12.8 母から『本人が警察沙汰を起こした』と電話連絡あり。
12.9 詳しい事情を聴取するため、往訪。本人は仕事に行っており不在。在宅していた母とA子から事情聴取。それによると、本人は12月2日から、母の紹介で□□にある中華料理店『○□』に就労。最初の休日であった12月8日、A子と一緒に遊びに出て、□△ブックセンター○○店で漫画15冊を万引し、警察に通報され、母が迎えに行って帰宅した、とのこと。
(本再非行事件については、H11.1.20に家庭裁判所送致とのこと)本人を来訪させるよう、母に依頼。
12.14 母から『本人が仕事にも行かず、□○にあるA子の家におり、明日連れ戻すので指導して欲しい』との依頼電話あり。
12.15 往訪。本人、母在宅。再非行について事情聴取・指導。本人のみとよく話し合いたいので、24日の来訪を指示。
12.24 連絡なく本人は来訪しなかった。
12.26 本人、来訪。再非行事件について指導するも、本人は罪を悔いることはなく、処分をおそれるのみ。仕事は、7日くらい出勤したがもうやめた、とのことなので、善悪のけじめをつけるとともに、就労を軸とする規則正しい生活をすることが再非行に陥らない唯一の道であることを本人とよく話し合い、就業努力を促した。
H11.1.10 約束の来訪日だが、本人から何の連絡もなく、来訪もなし。
1.12 往訪。本人及び母、不在。
1.14 往訪。本人及び母、不在。連絡をするよう置手紙をする。
1.18 朝、往訪したときは不在だったが、午後2時ころ往訪すると本人と母が在宅。
本人は、右目の回りに青痣を作っており、誰かに殴られたようであったが、事情を聞いても一切答えようとしなかった。
再度、早朝就労を指導。
1.19 朝、母から『昨晩9時頃、帰宅したところ、4人組の男達が窓ガラスを割って家に侵入し本人を殴っており、警察に通報したが事件にしてもらえず、本人もその4人組とともに家を出て行った。殴られた原因は、1月14日頃に本人が殴った男の車を無免許運転し、壁にぶつける物損事故をおこしたので被害弁償を請求され、本人が従わなかったためらしい。本人は、灰皿で頭を3・4回殴られ血まみれ状態だったのに、病院に行こう、外に行ってはいけない、としがみついて言う私を振り切り出て行っており、もうどうしようもない』との電話連絡があった。本人帰り次第連絡するよう母に依頼。
その後、本人帰宅したので、母が近所の自分の妹に家に本人を匿う。
1.20 本人不在の夜にも不審人物が本人を捜しに来ている模様で、母の不安がたかまり、担当者同伴で観察所に出頭。明日の本人の出頭を指示。
1.21 本人及び母、観察所に出頭。本人及び母の質問調書作成。
(2) 成績の推移
平成10年11月は普通、平成10年12月及び平成11年1月は不良である。
5 通告の理由
保護観察の経過及び成績の推移並びに、本人及び関係人に対する質問調査の結果からみると、本人は、保護観察決定以降も、
1 度重なる保護者の注意や指導を無視して不良成人・少年との夜遊び・無断外泊を繰返すなど、保護者の正当な監督に服さず、
(少年法第3条第1項第3号イ該当)
2 平成10年12月8日、交際相手のA子とともに、岡山市△△にある□△ブックセンターにおいて、漫画本15冊を窃取(万引)し、○○警察署に補導された上、担当保護司から再非行厳禁の指導を受けたにも拘らず、その直後の平成11年1月15日ころ、Cなる30歳位の男性所有の軽四輪自動車を借用して、自宅から○□にあるパチンコ店「○○」まで約2キロ程無免許運転を行い、同日同所近辺で自損(物損)事故をおこすなど、自己の徳性を害する行為をなす性癖がある。
(少年法第3条第1項第3号ニ該当)
特に、無免許運転については常日頃から機会があれば原動機付自転車の無免許運転を繰返していたが、さらに乗用車にと拡大する傾向が顕著で、このまま放置すれば、無免許運転を常習して人身に害のある事故を起こすことは必至である。
上記について総合的に勘案すると、本人はその性格環境に照らして、近い将来、さらに刑罰法令に触れる行為をなす虞があるものと認められる。
6 必要とする保護処分及びその期間
少年院送致
7 参考事項
添付資料
本人に対する質問調書(甲)1通
実母に対する質問調書(乙)1通
少年調査記録